新型コロナウイルス感染症が経営に影響が出始めてから3か月~4か月ほど
すでに持続化給付金や感染拡大防止協力金などの給付手続きを終えた方も多いことでしょう
しかし、この金額だけで乗り切れることができればよいのですが、そう甘くないのが現状です
そこで次の検討は「融資」と「借換」となります
それぞれのメリットは
1.融資 現金預金の残高を底上げし、資金を維持確保します
2.借換 現在ある借入金の借入期間(返済予定)を延ばすことで、資金繰りをよくします
ところが、平素から資金繰りそのものに、あまり関心がない方が意外と多いのではないかと思います
1.資金繰り予定表を作ろう
資金繰り表は、お金がいくら入って、出たか、その結果いくら残ったか?という結果の資料です
資金繰り予定表は、資金繰り表の予測版、今後の目標や確認、管理のために作成する将来の資料です
「融資」と「借換」を検討する場合、この将来の資金繰りの予測が重要なポイントになります
(内容は毎月である必要はありません、一事業年度単位で十分です)
資金繰り予定表は・・・
1.収 入 売上見込み
2.原 価 売上見込み × 毎期平均の原価率
3.経 費 固定費(固定費は毎期それほど大きく変わりませんから、コロナ以前の決算の概算値を用います)
4.借入金の新規借入 新型コロナ対策融資で借り入れる金額
5.借入金の返済 従前からの借入金の返済額+新型コロナ対策融資の返済額
で構成されます
この各金額を算定し、次の計算により当期末現金預金残高がマイナスにならないか、資金ショートしないかどうかを検証します
当期首現金預金残高 +(1.収入)-(2.原価)-(3.経費)+(4.借入金の新規借入)-(5.借入金の返済)=当期末現金預金残高
これにより、
融資を受ける金額、返済猶予の期間、借換による効果、を数字でつかみ、検討することができるようになります
(この資金繰り予定を、下記の「数字をあげて試算します」で行ってみます)
この中で注目すべきは [1.収入 売上見込み]です
これだけは将来の見込みを自分で考えて立てなくてはならない数値です
「そんなのわかないよ!」という声が聞こえそうですが、目指すべき目標で良いのです
このような時期ですが 売上見込み(=目標)を数字で出す ことで資金繰り予定表を作成することができ、経営の再起動までのロードマップさえ描けます
こうした資金繰りを考えずに「とにかく借りれるだけ多く借りておこう」という考えは危険です
この時期の借入額が大きすぎ、さらに、返済猶予期間を先延ばしすぎたため、回復期に入ったときに資金繰りが悪化するようではいけません
これを防ぐために、資金繰り予定表を作ります
次に、融資、借換についてそれぞれ検討してみます
2.新規に融資を受ける場合
給付金とは違い融資は返済があります
ここが悩ましいところです
目的は資金の維持ですが、
借りすぎてはいけない
返済猶予期間は長すぎてはいけない
ここをおさえておかないと、回復期の経営や資金繰りに悪い影響を及ぼす可能性があります
もう少し具体的に掘り下げると
・借入金額は 売上の50%まで
・返済年数は 10年
・猶予期間 は 1〜2年
・現在の借入について借換の可能性を検討すること(これは後で述べます)
そしてこれらを検討するために、先ほどの資金繰り予定表を作成しを試算してみます
数字をあげて試算してみます
試算のために会社を設定します
細かい条件はあえて排除します
固定費の削減や給付金の受領もあえて考慮しません
金利も計上しません
ご自分の会社や事業で試算を行う場合もこれで大丈夫です
おおきな流れをつかんでほしいと思います
モデルとなる会社
決算概要
売 上 高 2億円
売上総利益 6,000万円( 利益率30%)
固 定 費 5,000万円
経 常 利 益 1,000万円
借入金
現在の借入金残高 7,000万円(売上高の35%)
返済完了まであと7年 毎年の返済額 1,000万円
資金繰り
期首の預金残高 3,000万円
収 入 1,000万円 経常利益分現金化するとします
支 出 1,000万円 借入金の返済額のみで算定します
差引 0円
期末の預金残高 3,000万円
この会社についての二つの例で試算します
例1 業績が3年で回復すると見込める(目標を立てる)場合
借入金額を売上高の50%までとし、返済猶予期間を1年と短くします
借入金額を抑え、返済猶予期間を短く設定
一定の資金を維持し、回復期に資金維持ができるケース
例2 3年間業績が回復せず、4年目から回復すると見込める(目標を立てる)場合
売上高の85%まで借入れをし、返済猶予期間を5年までとします
借入金額が大きく、返済猶予期間を長く設定
借入直後は資金に余裕があるが、回復期の資金維持ができなくなるケース
例1 業績が3年で回復すると見込む(目標を立てる)場合
売上高 3年で回復(1年目=1億円 2年目=1億5千万円 3年目=2億円)
借入金 売上高の50%まで 新規3,000万円+従前分7,000万円=1億円
返済期間 10年
猶予期間 1年(9年で返済)
返 済
従前分 1,000万円/年(あと7年)
新規分 333万円/年 (あと9年 返済猶予1年)
合 計 1,333万円/年
1年目 (売上未回復、返済猶予期間中)
決算概要
売 上 高 1億円
売上総利益 3,000万円
固 定 費 5,000万円
経 常 損 失 ▲2,000万円
返 済
従前分 1,000万円
資金繰り
期首預金残高 3,000万円
新規借入 +3,000万円
支 出 -3,000万円
期末預金残高 3,000万円
2年目(売上回復3/4まで回復、返済猶予終了後)
決算概要
売 上 高 1億5,000万円
売上総利益 4,500万円
固 定 費 5,000万円
経 常 損 失 ▲500万円
返 済
従前分 1,000万円/年(あと7年)
新規分 333万円/年 (あと9年 返済猶予1年)
合 計 1,333万円/年
資金繰り
期首預金残高 3,000万円
支 出 1,833万円
期末預金残高 1,167万円
3年目(売上回復、返済猶予終了後)
決算概要
売 上 高 2億円
売上総利益 6,000万円
固定費 5,000万円
経常利益 1,000万円
返 済
従前分 1,000万円/年(あと7年)
新規分 333万円/年 (あと9年 返済猶予1年)
合 計 1,333万円/年
資金繰り
期首預金残高 1,167万円
収入 1,000万円
支出 1,333万円
期末預金残高 834万円
例2 3年間業績が回復せず、4年目から回復すると見込む(目標を立てる)場合
売上高 4年目から回復(1年目=1億円 2年目=1億円 3年目=億円 4年目=1億5千万円 5年目=2億円)
借入金 売上高の85%まで 新規1億円+従前分7,000万円=1億7,000万円
返済期間 10年
猶予期間 5年(5年で返済)
返済
従前分 1,000万円/年(あと7年)
新規分 2,000万円/年(6年後から5年 返済猶予5年)
合 計 3,000万円/年
1年目(売上回復途上、返済猶予期間中)
決算概要
売 上 高 1億円
売上総利益 3,000万円
固 定 費 5,000万円
経 常 損 失 ▲2,000万円
返 済
従前分 1,000万円/年 (あと7年)
資金繰り
期首預金残高 3,000万円
新規借入金 +1億円
支出 -3,000万円
期末預金残高 1億円
2年目
期末預金残高 7,000万円
3年目(売上未回復、返済猶予終了前)
期末預金残高 4,000万円
4年目(売上回復3/4まで回復、返済猶予終了後)
決算概要
売 上 高 1億5,000万円
売上総利益 4,500万円
固 定 費 5,000万円
経 常 損 失 ▲500万円
返 済
従前分 1,000万円/年 (あと4年)
資金繰り
期首預金残高 4,000万円
支出 -1,500万円
期末預金残高 2,500万円
5年目(売上回復、返済猶予終了前)
決算概要
売 上 高 2億円
売上総利益 6,000万円
固 定 費 5,000万円
経 常 利 益 1,000万円
返 済
従前分 1,000万円/年 (あと3年)
資金繰り
期首預金残高 2,500万円
収入 +1,000万円
支出 -1,000万円
期末預金残高 2,500万円
6年目(売上回復、返済猶予終了)
決算概要
売 上 高 2億円
売上総利益 6,000万円
固 定 費 5,000万円
経 常 利 益 1,000万円
返 済
従前分 1,000万円/年 (あと2年)
新規分 2,000万円/年(6年後から5年 返済猶予5年)
合 計 3,000万円/年
資金繰り
期首預金残高 2,500万円
収入 +1,000万円
支出 -3,000万円
期末預金残高 500万円
一時的に資金の底上げができ事業の継続はできますが、返済猶予期間終了後、資金繰りは急に悪くなります
このままだと7年目で資金ショートです
状況を把握するために、売上の見込み立て資金繰り予定表を作成する
上の2例を検討すると
・例1のように回復が早いと見込めば、融資は少なくて済みます
しかし、回復後も新型コロナ対策融資の返済は続きますから、資金繰りの検討は続けなければなりません
・例2の場合、回復の見込みがなかなか立たないので、できるだけ多く借入をし、返済猶予期間を長くしたい
しかしその結果、回復直後の資金繰りへの負担は大きくなります
だからと言って、少額で借り入れをするわけにもいきません
上記の例は「どちらかが正解でしょう?」という意味で提示しているわけではありません
どちらにも問題があるのです
それよりも自分の会社や事業が置かれている状況を把握することです
自分の事業が例1または例2に近い状況なのか、もしくはそれ以外の状況なのか?
その把握のためには、繰り返ししつこいようですが売上の見込み(=目標)を数字で立て、資金繰り予定表を作成することです
状況を把握、そしてどうすればよいのか
これは例1、例2のどちらにもあてはまりますが、以前からある7,000万円の借入金について、借換えを検討することです
・例2は返済猶予が終わると同時に資金ショートしますから、そうならないように
・例1は回復後も続く新型コロナ対策融資の返済を考慮して
どちらも借換を検討しておくべきです
3.借換を検討する
借換えのメリットは、返済期間を延ばせることにあります
返済期間を延ばせることができれば、業績の回復が遅れ資金繰りが好転しなくても、毎月の返済額は下がり資金繰りが良くなります
新型コロナウイルス感染症特別貸付 日本政策金融公庫
https://www.jfc.go.jp/n/finance/saftynet/covid_19.html
新型コロナウイルス感染症対応緊急借換 東京都
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/attention/2020/0305_13201.html
4.利益率と資金繰りを見てほしい
平常時においては、どうしても売上高だけに関心が行ってしまいます
しかし私は、経営者は 利益率 資金繰り を見てほしいとみてほしいと思います
売上高が下がっても、利益率が上がれば資金繰りはよくなります
実はこれが、今回の新型コロナ後へ向けての新事業への展開、業態変化のキーワードではないかな、と思っています