1.実効税率
事業を営んでいると利益に対してどれくらい税金がかかるかが気になります。
その手がかりとして実効税率が役にたつ事はご存じの通りです。
法人の場合いわゆる「税引き前当期利益」に実効税率を掛ければ
- 法人税
- 地方法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 地方法人特別税(令和元年10月1日開始事業年度以降廃止)
の合計額が算出されます。
個人事業主の場合でも「課税される所得金額」(所得税と個人住民税では若干違ってきますが)に実効税率を掛けることで
- 所得税及び復興特別所得税
- 個人住民税
- 個人事業税
の合計額についてほぼ近い数字をつかむことができます。
しかし、ここでいくつかの疑問が出てきます。
2.実効税率はおよそ何%と思っておけばよいのか?
[法人の場合]
現行は次の通りとなります。
法人区分 | 所得金額 | 令和元年9月30日以前開始事業年度 | 令和元年10月1日以後開始事業年度 |
---|---|---|---|
中小法人(※1) | 年400万円以下 | 25.90% | 25.99% |
年400万円超800万円以下 | 27.58% | 27.58% | |
年800万円超 | 33.59% | 33.59% | |
中小法人以外の普通法人(※2) | 29.74% | 29.74% |
中小法人:期末資本金または出資金の額が1億円以下の普通法人(期末資本金または出資金の額が5億円以上の法人等に完全支配される子会社を除く)
※1 住民税:標準税率を適用、 事業税:標準税率を適用 かつ 軽減税率適用法人として計算
※2 住民税:標準税率を適用、 事業税:標準税率を適用 かつ 軽減税率不適用法人として計算
大づかみに、中小法人でおよそ26%~34%、中小法人以外で30%というところです。
よく日本の法人に対する税率は高い、30%~40%くらいという認識がまだ残っていますが、ここ数年の改正の結果、平均して30%台を割り込み20%台まで下がっています。
財務省のホームページにそのあたりの説明がありますが、先進諸国と比較しても特別に高いとはいえないレベルまで下がりました。
(財務省ホームページ・法人課税に関する基本的な資料)
法人税率の推移 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/082.pdf
法人実効税率の国際比較 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/084.pdf
[個人の場合]
個人の場合は法人と異なり所得税が累進課税制度(現行5%~45%の7段階)を取っているため、実効税率の幅は法人より大きくなります。
個人住民税は一律10%、個人事業税は業種により、3%、4%、5%のいずれかが適用されます(累進課税ではありません)。
従って、まず「課税される所得金額」を算出して、所得税のどの税率が適用されるかがわかれば実効税率を算出できます。
【実効税率の計算例】
まず「課税される所得金額」は
[所得金額(収入-経費)]-[所得控除(配偶者控除、医療費控除など)]
で算出されます。
この「課税される所得金額」が仮に500万円で、事業は飲食店を営んでいるとします。
これを、所得税の税率表から該当する税率を確認します。
(国税庁ホームページ:所得税の税率) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
税率表から、該当する税率は20%で控除額427,500円ということなので、実質の税率は
(5,000,000円×20%-427,500円)÷5,000,000円=11.5%
各税目の税率は、所得税が11.5%、個人住民税が10%、個人事業税が5%(飲食店業)、復興特別所得税0.42% で、その合計 27.92% が実効税率になります。
3.消費税及び地方消費税はどう考えればよいのか
消費税は間接税ですから、受取にかかる消費税は仮受金、支払にかかる消費税は仮払金という扱いですが、実質的にキャッシュフローの中に含まれています。
所得に対して課税される直接税ではありませんから実効税率とは無関係ですが、資金繰りに大きな影響を及ぼすという意味では見過ごせません。
10月1日からは税率も10%となる予定です。
実効税率で把握ができないので、期中の仕訳入力で常に消費税の処理を行い管理しておくことが必要です。
正しく入力さえしておけば、会計ソフトの機能で期中であっても消費税試算表の作成や納税額の算出までをしてくれますから把握は容易になります。
4.社会保険料、労働保険料の会社負担額は?
社会保険料、労働保険料の法人負担も資金繰りに大きな影響を及ぼしていることは言うまでもありません。
これは支給する給与等に保険料率を掛けて算出しますから、当然、実効税率とは無関係であり、別途把握が必要です。
また期中において、社会保険料等の納入額全額(本人負担+会社負担)を法定福利費として処理していたり、全額を預り金として処理し、決算でまとめて整理するケースがありますが、この場合、預金残高があってはいるものの、その支出が本人負担なのか、会社負担なのかが正しく把握できていません。また、当期利益も正しく把握できません。
従業員数が多く社会保険料等の額が多い場合は期中から「本人負担=預り金」「会社負担=法定福利費」の切り分けをきちんとしておく必要があります。
5.利益に対する負担割合だけでなく資金繰りへの影響が大事
ここまでみてくると見えてきますが、かつて公費の中で最も大きなウエイトを占めていた、法人税、所得税といった直接税は思いのほか引き下げられ、それに代わるようにして利益と無関係である消費税等の間接税、税ではない社会保険料等が資金繰りに大きく影響しています。
すなわち公費の負担を把握するには、利益に対する割合(実効税率)だけでなく、資金繰りのなかでのウエイト(資金繰り)をみておくことが大事になります。
・法人税等や所得税等の利益にかかる直接税は→実効税率
・消費税等の間接税や社会保険等→資金繰り
を見ておかなければなりません。
6.法人と個人の税率の差、これをどうとらえたらよいか
さて、もう一つの疑問が残ります。
税金を個人で納めるか、法人で納めるか?
個人事業主が事業に成功すればするほど、累進課税制度のもとで適用される所得税の税率はどんどん上がっていきます。
そこで個人事業主にとって「法人成り」を検討する局面が訪れます。
「個人で開業してから一定期間が経過し、仕事も安定してきた、
所得税の実効税率はというと、経常的に一定レベルに達して大きく下がることはない。
仮にもし、現状を法人に置き換えたとして、法人の実効税率を算出しと比較したならばどうなるか?」
という検討をしてみます。
そして「所得税等の実効税率」が「法人税等の実効税率」を超えるなら法人成りを真剣に考える事になるでしょう。
そして社長は給与で収入を得ることになります。
給与所得には給与所得控除がありますから、事業所得の場合よりが税負担が軽減される可能性が高くなります。 個人事業税の課税はありません。 また、国民健康保険は社会保険へ、国民年金は厚生年金へ切替ができます (ただし、給与を際限なく上げると今度は社会保険の負担が大きくなりますから注意が必要です)
こうしてよく考えてみると、法人成りしても結果的に個人で収入を得て、税金を個人で納めている事に気づきます。
ただし税負担の大きくなりがちな事業所得から税負担の小さい給与所得への切替が行われ節税をはかっているわけです。
実効税率から資金繰りを把握することで法人成りの検討にまでつながるというわけです。